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広島高等裁判所岡山支部 昭和49年(ラ)19号 決定

抗告人 水島美栄子

右抗告代理人弁護士 一井淳治

同 河田英正

相手方 有限会社ホテル水島

右代表者代表取締役 水島清二

主文

一、原決定を次のとおり変更する。

二、有限会社ホテル水島(本店所在地岡山県真庭郡湯原町大字湯本二一番地)について、次の検査事項を調査させるため、岡山市富田町一丁目二番二一号能勢ビル内黒田充洽を検査役に選任する。

三、検査事項

1  第一六期営業年度(昭和四六年一二月一日から昭和四七年一一月三〇日まで)以降の業務の状況、特に個別的収支の状況並びに現在の経営状況の詳細

2  財産の状況(特に資産、負債の個別的明細並びに各発生原因)、特に各借入金並びに貸付金(融通手形を含む)の発生年月日、弁済期、利率、元利弁済状況

理由

一、抗告代理人は主文同旨の裁判を求め、その理由の要旨は「原決定は、抗告人申請の検査事項のうち、第一六期営業年度分の検査を権利の濫用であるとして却下したが、それは、昭和四八年八月一六日開催の社員総会に関して誤認したものであり、第一六期営業年度分の検査なくしては本件検査役の選任はその実効性を期待しがたいものであるから、本件抗告の趣旨記載の裁判を求めるため、本件抗告に及ぶ。」というのである。

二、よって検討するに、当裁判所も原決定の認定判断は原決定の理由六の(三)項を除いてその余の部分はすべて正当であると判断するので、ここにこれを引用する。

三、そこで、抗告理由の点につき検討するに、なるほど原決定の理由六の(三)項掲記の各証拠を総合すれば、抗告人は相手方会社の社員として、昭和四八年八月一六日開催の社員総会において、第一六期営業年度の法定計算書類を他の全社員ととも異議なく承認したこと、本件申請は相手方会社の従業員であった抗告人の夫が相手方会社から解雇通告を受け、抗告人夫婦と抗告人の実父で相手方会社の代表取締役である水島清二との間にあつれきが生じたことを契機として提起されたものであることが認められる。

そして、有限会社法における検査役の選任請求権は小数社員に与えられたいわゆる共益権であるから、小数社員の個人的利益追求あるいは会社の業務担当者を困惑させることのみを目的としてなされるときなどは権利の濫用にわたるものとしてその行使が許されないことは明らかである。

しかしながら、本件においては、相手方会社には前記引用にかかる原決定判示のとおり、第一五期営業年度以降の業務の執行に関し、法令に違反する重大な事実があるのであるから、抗告人の本件申請の契機が前記の事情によるものであるからといって、これをもって直ちに本件申請にかかる検査の目的中第一六期営業年度の検査請求を権利の濫用にわたるものとはにわかに断定しがたく、また抗告人が第一六期営業年度の法定計算書類を昭和四八年八月一六日開催の社員総会において他の社員全員とともに承認しているからといって、右営業年度の検査を除外する理由に乏しく(有限会社法四六条一項、商法二八四条参照)、さらに前記二つの事情をあわせ考えても、いまだ右営業年度に関する部分の検査請求を権利の濫用あるいは必要性なしとして排斥するにいたらないと解する。

四、以上によれば、本件申請はすべて理由があるので、これを認容すべきであるから、これと一部異なる原決定を右の趣旨に変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 山下進 篠森真之)

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